シャドーバンキングとは、規制が厳しい銀行を介さずに資金をやりとりする金融取引全般を指す。中国では融資が制限されている銀行が、企業や個人に投資商品を紹介することで、個人や企業の資金が地方での不動産開発など公共投資に流れ込んでいる。中国銀行業監督管理委員会はシャドーバンキングで問題視されている代表的商品である理財商品規模は約130兆円と公表しているが実際の規模は不透明となっている。 中国国務院はシャドーバンキングの膨張で起こりかねないリスクを厳しく防ぐことなどを柱とした金融行政・政策指針を発表。また、シャドーバンキングを3つに分類。国務院が主導し、包括的な管理体制を整備する方針。 中国銀行監督管理委員会は、理財商品の情報を当局に登録するよう銀行に通知。中国審計署は、シャドーバンキングを利用した資金調達の実態を解明するため、公的債務の全面的な調査に乗り出す。


シャドーバンキングと資金流入先

 シャドーバンキングとは、規制が厳しい銀行を介さずに資金をやりとりする金融取引全般を指す。中国では融資が制限されている銀行が、企業や個人に投資商品を紹介することで、個人や企業の資金が地方での不動産開発など公共投資に流れ込んでいる。資金の流入先は銀行から借り入れが困難な地方政府傘下の投資会社「融資平台」や不動産会社などとみられる。中国の地方政府が出資する資金調達会社の負債総額は、2012年末で19兆元(約307兆円)に達しているとの試算もある。投資先は回収に時間が必要なインフラ事業が多く、利払い費用の確保が大きな課題となっている。


実体経済と金融取引の乖離

 中国人民銀行は、2014年1月15日、企業や個人など社会全体に供給されたマネー規模を示す指標「社会融資総量」が2012年比10%増の17兆2900億元(約298兆円)になったと発表した。銀行融資に加え、債券発行、銀行以外の貸出なども含んでいる。2013年の社会融資総量のうち、銀行による人民銀建て融資比率は51.4%と0.6ポイント低下。一方、シャドーバンキングの代表格と言われる企業間のまた貸しは前年に比べ倍増し、2兆5500億元まで膨らんだ。信託会社を通じた融資も40%増となり、両者全体に占める割合は16%から25%に上昇した。 一方、中国のGDP成長率は2012年は7.7%、2013年は7.5%の見通し。実体経済と金融取引の乖離が広がっている。

【中国 GDP成長率と社会融資総量増加率比較】

  2012年 2013年
GDP成長率 7.7% 7.7%
社会融資総量 58%増 10%増

【社会融資総量推移】

  2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年
社会融資総量 7兆元 14兆元 14兆元 12.8兆元 15.7兆元 17.3兆元


理財商品規模

 2013年6月29日、銀行業監督管理委員会の尚主席は、中国の理財商品規模を8.2億元(約130兆円)と公表した。中国の対GDPの約16%、人民元預金残高67兆円の約12%に相当する。また、英フィッチ・レーティングスは13兆元としており、実際の規模は不透明となっている。

発表機関 理財商品規模
銀監会 6月 8兆2000億元
英フィッチ・レーティングス 6月 13兆元

【シャドーバンキングの取引規模】
中国政府系シンクタンクである中国社会科学院は、シャドーバンキングの取引規模が推計で2012年末に20.5兆元(約326兆円)になったとする報告をまとめた。2012年のGDPの40%に相当する。

発表期間 年度 内容
中国社会科学院 2012年 20兆5000億元

【融資平台の債権発行額】
地方政府傘下の投資会社「融資平台」が2013年に市場から調達した資金が9679億元(約16.5兆円)と過去最高を更新したようだ。上海市などを除き地方債を発行できない地方政府が融資平台に債権発行などによる資金調達と道路や鉄道などへのインフラ投資を代行委託。資金調達のために発行する債券は理財商品に組み込まれており、シャドーバンキングの代表的な存在となっている。なお、中央政府は地方政府による保証を禁止している。

分野 金額
融資平台の債券発行額 2013年 9679億元(約16.5兆円)

 

【中国4大銀行の理財商品残高】
中国の4大銀行(中国工商銀行、中国建設銀行、中国農業銀行、中国銀行)の元本保証のない理財商品販売残高。2013年末時点は2.8兆元(約45兆円)、2014年6月時点は2兆9630億元(約52兆円)。

  2013年末 2014年6月
理財商品販売残高 2.8兆元(約45兆円) 2.9兆元(約52兆円)
  2013年1-6月 2014年1-6月
純利益 不良債権額 純利益 不良債権額
工商銀行 1383億元 818億元 1481億元 1057億元
建設銀行 1197億元 803億元 1306億元 956億元
農業銀行 924億元 867億元 1040億元 974億元
中国銀行 807億元 695億元 858億元 858億元
4311億元 3183億元 4724億元 3845億元


金利

商品 金利
銀行の1年物定期金利上限 3.3% 
銀行の貸し出し金利下限 4.2%→撤廃 
理財商品 5~10% 

中国人民銀行は、2013年7月20日から銀行の貸し出し金利の下限を撤廃した。中国は預金金利の上限を基準金利の1.1倍、貸出金利の下限を0.7倍と設定している。現在の預金受け入れ基準金利は3%、貸出金利基準は6%であることから、銀行の1年物定期金利の上限は3.3%、貸出金利の下限は4.2%に設定されていた。 シャドーバンキングで問題視されている理財商品の金利は5~10%とされており、銀行を介さない理財商品が広がる原因となっていた。銀行の貸し出し金利の下限撤廃は、シャドーバンキングの抑制効果の点では限定的との見方が多いが、貸出金利の規制を撤廃することで銀行間の競争で金利水準が決まる余地が広まる可能性がある。 また、中国人民銀行の周小川総裁は、2014年3月11日、預金金利の自由化について個人的な見解とした上で「1、2年で実現できる可能性が高い」と述べ、預金金利上限の撤廃についての時期を明かした。


対策

 【銀行業監督業務委員会】

対策内容
3月  理財商品の販売金額を銀行の総資産の一定割合に抑えるよう通知 
7月  理財商品の情報を当局に登録するよう義務付け

中国の銀行業監督業務委員会は、2013年3月、理財商品の主要な販売者である銀行に対し、理財商品の販売金額を銀行の総資産の一定割合に抑えるように通知。購入者に対する商品の十分な説明なども義務づけた。また、理財商品の情報を当局に登録するよう銀行に義務付け。2011年、2012年に販売した理財商品も含め個人向けの商品を対象に、2013年7月31日までに登録を完了するよう求める。

【中国国務院】
中国国務院は、2013年7月5日、シャドーバンキングの膨張で起こりかねないリスクを厳しく防ぐことなどを柱とした金融行政・政策指針を発表し10項目にまとめた。

中国国務院の金融行政・政策の指針
穏健な金融政策を継続し、合理的な通貨供給量を維持
重点産業の構造改革を促進
零細企業の発展を支援
農業分野への貸付強化
個人向け金融の強化
企業の海外進出を支援
資本市場の多層化を促進
保険の機能を強化
民間資本の金融業への受け入れを拡大
金融リスクを厳しく防止

不良債権の温床と指摘されている地方政府傘下の投資会社「融資平台」などへの監視を強化。ストレステストなどを行い、金融システムリスクが起こることを未然に防ぐことを重視する。過剰な生産能力を抱える産業に対しては、メーカーが許可を得ずに行おうとする生産能力増強への融資を厳しく禁じ、投資による生産過剰の激化を防ぐ。 また、シャドーバンキングを金融免許を持たないネット金融仲介会社や理財商品の販売会社、金融免許を持たないノンバンクや信用保証会社、金融免許を持つファンドや理財商品業務などを営む金融機関の3つに分類。国務院が主導し、包括的な管理体制を整備する。銀行には理財商品の専任管理部門を置き、通常資産と分けて管理することを要求。ノンバンクや信用保証会社は中央政府が全国統一の規制制度を確立し、地方政府が管理監督。理財商品の販売会社やネット仲介会社は、中国人民銀行が関係部門と協業し、規制制度や監督機関の枠組みを作るとしている。 金融当局が公表している統計は銀行の理財商品残高、信託融資残、債券発行額などに限られ、金融当局も全容を把握できていないことから、統計も整備する。