英国のメイ首相は、2017年3月29日、欧州連合(EU)の離脱を通知した。EU離脱の交渉期限は原則2年。EUの全加盟国が交渉延長に同意しなければ、離脱条件や新たな貿易協定が決まっていなくても、英国は2019年3月末までに離脱することになる。本格的な離脱交渉は2017年5月から始まるとみられる。

また、2017年1月17日、メイ首相はEUからの離脱に関する基本方針を示した。「単一市場に残れば、EUの影響を受け続ける。それはEU離脱ではない」とし、EU域内で人やモノ、サービスの自由な移動や取引を認める単一市場から完全に撤退。移民制限や国境管理、EU司法裁判所の管轄権から独立するなど、権限回復を優先する。

離脱後に、EUと包括的な自由貿易協定(FTA)の締結を目指し、製造業や金融業などが単一市場に最大限アクセスできるよう交渉すると強調。「EU離脱はよりグローバルな英国を築くチャンスだ」とし、EU域外の国々と自由貿易交渉を進める意向を示した。

一方、EU側は他の加盟国が英国に追随することをけん制するため、厳しい姿勢で交渉に臨む見通し。


【EU離脱へのスケジュール】

項目 内容
英国のEU離脱通告 2017年3月29日
英国のEU離脱 2019年3月末までに


【EU離脱に関する基本方針】

項目 内容
基本方針 EU単一市場から完全撤退
移民制限や国境管理、EU司法裁判所の管轄権からの独立など権限回復を優先
EUとFTAの締結を目指す
EU域外の国々と自由貿易交渉


英国 EU離脱に関する焦点

 【貿易】
EU加盟国間の貿易には「シングルマーケット(単一市場)」と呼ぶ制度が導入されており、域内には関税も非関税障壁もない。英国はEU離脱後にはシングルマーケットの恩恵を受けられなくなる。そのため、新たに結ぶ貿易協定の中身が焦点となる。

英国は離脱後もEUの共通市場と自由に取引したい意向。一方、EUは英国に追随しEUを離脱する国が出るのを防ぐ必要があり、関税などの交渉で厳しい条件を出すことも考えられる。

なお、EUは英国の輸出の40%を占める最大の貿易相手となっている。また、英国はEU域外との国との貿易交渉も進める必要がある。


【パスポート制度】
パスポート制度とは、銀行や証券会社など金融機関が単一免許でEU域内の業務ができるもの。EUから離脱した英国での免許が独仏などでは通用しなくなる恐れがある。その場合、EU域内に現地法人を新たに作る必要があり、金融機関の負担が重くなる。

英国は金融関連ビジネスで国内総生産(GDP)の約10%を稼ぐ。米国やアジアの金融機関は単一免許でEU域内で営業できるパスポート制度により、会計や法律など関連サービスが充実したロンドンに欧州の中心拠点を構えている。また、金融機関の集積をテコにロンドンは、為替と債券の取引で世界の中心的地位を確立している。


【就労ビザの不要】
EU加盟国のパスポートを保有していれば、英国で労働ビザなしで働くことができる。英国がEUから離脱すれば英国で働くヒトは労働ビザが必要になる。


英政府 EU単一市場を抜けた場合の税収試算

英政府は、英国がEU離脱にあたり、関税がないEU単一市場を抜けた場合、税収が市場アクセスを維持した際に比べて年間最大660億ポンド(約8兆4000億円)減少する恐れがあると資産した。2016年の税収見込みの9.2%に相当する。

新たに自由貿易協定(FTA)を結ばず、世界貿易機関(WTO)のルールが適用されると仮定。最大の貿易先であるEUとの輸出入に関税がかかることで貿易の停滞を招き、15年後にはGDPが5.4%~9.5%落ち込むと見込んだ。この結果、税収が380億ポンド~660億ポンド減るという。

項目 内容
GDP 15年後に▲5.4%~▲9.5%
税収 15年後に▲380億ポンド~▲660億ポンド
仮定 EUとFTAを結ばず、WTOルールが適用


 メイ政権 基盤強化に向け国民投票を実施

英国のメイ首相は、2017年4月18日、下院を解散して6月8日に総選挙を行う方針を示した。2020年の予定だった総選挙を前倒しで行う。欧州連合(EU)との離脱交渉を巡り、自らの離脱交渉について国民に信を問い、政権基盤を強化してEUとの交渉力を高める狙い。

メイ首相は「英政府は正しい離脱戦略を持っている」「議会はばらばらで交渉の成功を脅かしている」「離脱を成功に導ける安定した強い政権をつくる唯一の方法として、やむを得ず選挙実施を決断した」とし、EU単一市場から完全撤退するといった「強行離脱」方針への支持を訴えた。