独フォルクスワーゲン(VW)は、2015年9月22日、排ガス試験の不正問題で対策費用として65億ユーロ(約8700億円)を7-9月期に特別損失に計上すると発表した。米環境保護局(EPA)による排ガス試験をクリアするために検査中だけ排ガスを減らす違法なソフトウェアを使っていたという。対象車種はVWと傘下アウディで2008年以降に販売された「ゴルフ」「パサート」などディーゼル5車種。台数は1100万台に上るもよう。

VWは不正を認め、対象車種の販売停止を決定。リコールも実施する見通し。また、米メディアは制裁金が最大180億ドル(約2兆1600億円)に上ると報道。刑事訴追の可能性もある。

ディーゼル車は燃費の良さが特徴。欧州の新車販売の約半分を占める。VWグループの欧州市場でのシェアは25%。


VWの排ガス試験不正問題

項目 内容
特別損失 8700億円
対象台数 1100万台
制裁金 2兆1600億円
不正にからむ費用 4兆円

【費用】
VWは、排ガス試験の不正問題での対策費用として65億ユーロ(約8700億円)を2015年7-9月期に特別損失に計上する。

また、VWは試験時だけ排ガス低減装置を作動させ、実際の走行時は装置を停止させていたため、設定を変更すると、通常走行時の燃費が悪化し、二酸化炭素(CO2)排出量が増えてしまう恐れがあるという。搭載されたディーゼルエンジン自体の交換を求められれば費用はさらに膨らむ可能性がある。なお、不正にからむ費用は総額300億ユーロ(約4兆円)に膨らむとの試算がある。


VWのCO₂排出量不正問題

VWは、2015年11月3日、二酸化炭素(CO₂)排出量で不正が見つかったと発表した。車両の認証を受けるためにCO₂排出量を測定する際、燃費データを低くするように設定されていた。対象車種は約80万台。ガソリン車も含まれるもようで、ドイツ政府は9万8000台としている。

VWは不正対策費用として20億ユーロ(約2660億円)を計上する。

項目 内容
不正対策費用計上 2660億円
対象台数 80万台


販売

【中国】
VWは中国販売で首位。VWの世界販売の約40%を占める。中国市場はガソリン車が主体で、不正対象車の販売は少ない。中国では2015年10月から排気量1600cc以下の小型車を対象にした取得税の減税措置を開始。VWの中国販売の70%は減税対象車が占める。


【スイス】
スイスの交通規制当局は、2015年9月25日、VWによる排ガス試験不正問題を受け、VWグループのディーゼル車の一部を販売禁止にすることを決めた。不正なソフトを搭載した車種が対象とみられ、18万台が影響を受ける見通し。


訴訟

VWの米預託証券(ADR)を購入し、損失を被った投資家により集団訴訟の手続きが開始されたもよう。VWが違法ソフトを用いているとの情報を隠してディーゼル車を販売し、不当に株価をつり上げたとして問題発覚後に株価が急落したことで損失を被ったと主張している。

ADRを過去5年間に購入した投資家に対して訴訟への参加が呼びかけられているという。また、米国では対象のディーゼル車の所有者達が、VW側に損害賠償などを求めて米裁判所に提訴する動きもある。ディーゼル車に出した補助金の返還を求める動きもある。


自動車の排ガス試験を厳格化

米環境保護局(EPA)は、2015年9月25日、VWによる排ガス試験不正問題を受けて自動車の排ガス試験を厳しくすると発表した。現状の排ガス試験では、対象車を試験台に乗せ、加速や減速を繰り返し、ガスに含まれる窒素化合物(NOx)や粒子状物質(PN)などの大気物質を測定している。今後は、検査時間や走行距離を伸ばし、実地に近い検査を追加する。


VWの業績推移

VWは、2015年10月28日、7-9月期の純利益を▲17億3100万ユーロ(▲2300億円)と発表した。排ガス試験の不正を受けた引当金が響いた。

  2014年 2015年
純利益 7-9月 29億2800万ユーロ ▲17億3100万ユーロ


参考 

・VWでは確定拠出型年金プランが270億ユーロ(約3兆6580億円)の積立不足となっている。