燃料電池車は、水素と酸素との反応で発生した電気で走行する。1回の水素の補給で約700キロメートル走り、電気自動車より走行距離が長い。また、二酸化炭素を全く排出しないことから「究極のエコカー」と言われる。デロイトトーマツコンサルティングの予測によると燃料電池車の世界市場規模は2025年に5兆3000億円、2030年には10兆6000億円になる見通し。世界販売台数は2025年で180万台。2030年には425万台と予測している。米国ではまず厳しい環境規制を課すカリフォルニア州で普及し、シェールガスの副産物である水素がカンフル剤となり全米に普及すると予測している。日本の販売台数は2025年に20万台と予測されている。

 

市販計画

トヨタ自動車は2014年12月に販売を開始。価格は700万円程度で、国の補助金を見込み、購入者負担額は500万円程度になるもよう。ホンダも2015年の市販を目標に開発を進めており、2015年には全体で約1400台が市場に供給される見通し。日産・ルノー、ダイムラー、フォード・モーターは燃料電池車の開発で提携し、2017年に量産車を供給する計画。

また、トヨタ自動車は、2015年に北米でも燃料自動車を投入する。米国初となる燃料自動車のセダンを投入する計画。

日本の自動車業界は、2025年に燃料電池車の累計販売台数を200万台に設定している。目標に到達した場合、水素ステーションは700~1000ヶ所必要で、水素需要は約24億立方メートルと予測されている。

企業 時期 販売計画
トヨタ自動車 2015年 年間700台。1台500万円程度を目標。独BMWと連携
ホンダ 2015年 市販投入
日産・ルノー 2017年 量産車を発表。ダイムラー、フォードと提携
現代自動車 2015年 年間1000台生産
GM 2015年 発売目指す


【トヨタ自動車】
2014年12月に日本で発売を開始する。価格は700万円程度で、国の補助金を見込み、購入者負担額は500万円程度になるもよう。また、米カリフォルニア州の主要地域で燃料電池車1万台を運用するには68ヶ所の水素ステーションが必要と予測。カリフォルニア州では2016年までに40ヶ所の整備を計画しており、インフラ整備に合わせて、2015年に米国で燃料電池車を投入する。

【ホンダ】
2015年度中に日本で発売。その後米国や欧州に広げる。価格は未定。

 

 

水素ステーション

水素ステーション建設には高コストという課題がある。ガソリンスタンドの建設コストは7000万円から1億円だが、水素ステーションは5億円から6億円かかるとされる。そのため、日本は水素ステーションの建設コストを2020年までに2億円にするという目標を掲げる。一方、欧州では水素ステーションに関する制度整備が進み、1億円台での建設が可能という。なお、政府は水素ステーションを2015年に全国で100ヶ所設置することを目標としている。

 

コード 企業 内容
5020 JXHD 13年4月にガソリンスタンドと併設した水素ステーションを開設
16年に水素ステーションの建設数を100ヶ所に
化石燃料から水素を従来より20%多く取り出す装置を開発
水素を液体化し、常温・常圧でトレーラーで運ぶ技術を開発
8088 岩谷産業 13年5月に東邦ガスと愛知県で商用仕様の水素ステーションを設置
14年7月に兵庫県に商業用水素ステーションを設置
15年に20ヶ所の水素ステーション設置を計画
40億円を投じて水素などのガス研究所を建設
9531 東京ガス 東京都と埼玉で水素ステーションを建設。15年に運転開始
8015 豊田通商 仏大手と提携し14年中に愛知県2ヶ所に水素ステーションを設置
9532 大阪ガス 大阪府に水素ステーションを建設。15年に運営開始
4091 大陽日酸 水素ステーションの主要機器をパッケージ化


【JX日鉱日石エネルギー(JXホールディングス)】
2013年4月にガソリンスタンドと併設した水素ステーションを開設。2014年に19ヶ所、2015年に40ヶ所、2018年に100ヶ所を建設する計画。2010年代半ばに水素製造設備を建設し、稼動を目指す方針。水素ステーションの運営や水素の調達・供給を手がける子会社を設立。既存のガソリンタンクに併設するほか、首都圏や地方の主要都市に水素供給専用の拠点を新設する。

  2014年 2015年 2016年
水素ステーション 15ヶ所→19ヶ所 40ヶ所 100ヶ所


【岩谷産業】
2013年5月に東邦ガスと共同で愛知県に商用仕様の水素ステーションを設置。2014年7月に兵庫県に商業用を設置。2015年中に計20ヶ所建設する計画。パッケージ型の機器による水素ステーションの省スペース化、短工期化でコスト低減を図ることや大容量・直充填技術の評価などを行っている。

また、40億円を投じて水素などのガス研究所を建設。超低温の液化水素を安全に輸送・貯蔵したりする技術や水素を効率的に圧縮する技術研究を行う体制を整備。

独リンデは岩谷産業との合弁で水素充塡システムを日本で生産する。液化水素を専用装置で気体に戻し、高圧にして自動車に供給する仕組みを、専用ポンプだけで液化水素を高圧水素にして注入する仕組みを目指す。岩谷産業は海外のポンプを日本で設置できるよう高圧保安協会と調整。2015年にも生産に着手する計画。

【東京ガス】
東京都練馬区とさいたま市の2ヶ所に燃料電池車向けの水素ステーションを建設。練馬区は2013年7月、さいたま市は2013年秋頃建設に着手し、2015年に運営を開始する。設備施設には経済産業省の補助金交付を受ける。

【豊田通商】
仏エア・リキードと提携し2014年中に愛知県内2ヶ所に水素ステーションを設置する計画。エア・リキードは欧州を中心に60ヶ所に水素ステーションを設置した。豊田通商は日本での行政との規制対応やステーションの収支管理を請け負う。

【大阪ガス】
大阪府に水素ステーションを建設。2014年秋に建設に着工し、2015年春に運営を開始する計画。投資額は5~6億円。

【大陽日酸】
水素ステーションの主要機器を従来の2分の1にしたパッケージ型製品を発売。

 

水素燃料

水素燃料は石油から化学品を生産する工程で取り出すため、コストが高い。現在1立方メートルあたり約120円とされている。川崎重工は2017年から豪州より輸入を開始し60円に、千代田化工は川崎市で大型供給基地を建設し80円に、JX日鉱日石エネルギーは水素をトルエンに溶かして液体化し、常温・常圧でトレーラーで水素ステーションに運ぶ技術を開発し100円以下に、ステーション整備や水素の生産量増加でさらにコストを引き下げ、ガソリン並みの60円に近づける方針。

  2013年 目標
水素燃料コスト 120円 60円

【関連銘柄】

コード 企業 内容
5020 JXHD 水素を液化し、常温・常圧でトレーラーで運ぶ技術を開発
7012 川崎重工業 液化した水素を運ぶ船舶を製造。30年までに年間300万台分の供給量を確保
6366 千代田化工建設 17年度に川崎市で水素燃料の大型供給基地を建設
液化した水素から再び水素ガスを取り出す特殊な触媒を開発
8015 豊田通商 下水処理の過程で発生するバイオガスから水素を製造
6331 三菱化工機


【JX日鉱日石エネルギー(JXホールディングス)】
自社で生産している水素をトルエンに溶かして液体化し、常温・常圧の状態でトレーラーで水素ステーションに運ぶ技術を開発。車に充塡する時点で、独自開発した触媒を使って気体に戻す。現在は、気体の水素を高圧で圧縮し専用トレーラーで輸送し貯蔵しているが、液体化すれば高強度の炭素繊維製ボンベや爆発を防ぐ設備なども不要になり、水素ステーションの建設費は2億円と現行より半減する見通し。水素生産・流通コストは100円以下が実現できるもようで、ステーション整備や水素の生産量の増加でさらにコストを引き下げ、ガソリン並の60円に近づける計画。2020年を目途に供給網の整備を始める。

【川崎重工】
液化した水素を運ぶ船舶を製造。600億円を投じ2500立方メートルの水素を運べる小型船2隻を製造。2017年からオーストラリアから輸入を開始。2030年までに16万立方メートルの水素を運べる大型船を製造。燃料電池車の年間300万台分の供給量を確保する。輸入価格は1立方メートルあたり29.8円で、国内流通コストを上乗せしても60円になるもよう。オーストラリアの品質の低い「石炭」から水素を取り出し、マイナス253度まで冷やして液化水素にする技術を持つ。

また、水素作製時に排出される二酸化炭素を地中に埋める「二酸化炭素貯留(CCS)」の実用化をオーストラリアで計画。2017年に実証実験を始める予定。実用化できれば、二酸化炭素排出量をゼロにできる可能性がある。

【千代田化工建設】
2017年度に川崎市で水素燃料の大型供給基地を建設。投資額は300億円。供給量は年6億立方メートル。産油国で原油採掘時にでる水素を液化して船で持ち込む。首都圏の水素ステーションを中心に圧縮・液化して専用車で配送する。水素の価格は約80円に下げられる見通し。

【豊田通商・三菱化工機・九州大学】
下水処理の過程で発生するバイオガスから水素を製造し、燃料電池車へ供給する施設を新たに整備し、実証実験に取り組む。1日に燃料電池車約70台分の3700万立方メートルの水素を製造する。水素を製造できる下水汚泥消化ガスの発生能力がある下水処理場は日本全国に約300ヶ所ある。


燃料電池車関連企業

燃料電池車では固体高分子形の燃料電池が使用されている。固体高分子形とは、電解質に高分子イオン交換膜を使用。セルと呼ばれるプラスとマイナスの電極板が固体高分子膜を挟む構造になっている。セルのプラス極とマイナス極には多くの細い溝があり、外部から供給された水素と酸素がこの溝を通過することで反応が起こり、電気が発生する。このセルを重ねることで必要な電気を発生させ、モーターを動かす動力を生み出す。

製品 コード 企業
水素漏れ検知器 7915 日本写真印刷
水素漏れ検知センサー 6824 新コスモス電機
5334 日本特殊陶業
水素ステーション情報管理システム 6702 富士通
セル関連 セパレータ材 3105 日清紡HD
4004 昭和電工
4631 DIC
5301 東海カーボン
5302 日本カーボン
5310 東洋炭素
電解膜質 3405 クラレ
4043 トクヤマ
4045 東亞合成
5331 ノリタケカンパニーリミテド
5401 新日鐵住金
5471 大同特殊鋼
電極 4080 田中化学研究所
4082 第一稀元素化学工業
5566 中央電気工業
8101 GSIクレオス
水素貯蔵炭素繊維製タンク 3401 帝人
3402 東レ
水素ステーション 5002 昭和シェル石油
5007 コスモ石油
5020 JXHD
8088 岩谷産業
8132 シナネン
8133 伊藤忠エネクス
8015 豊田通商
6331 三菱化工機
6391 加地テック

【日本写真印刷】
2014年12月15日に発売されたトヨタ自動車の燃料電池車「ミライ」に水素漏れ検知器が採用。

【帝人】
燃料の水素イオンと電子、酸素から水を作る安価な触媒を開発。高価な白金の代わりに鉄と窒素を使用。触媒価格を10分の1に引き下げる計画。

【新コスモス電機】
水素漏れを検知するセンサーでトップシェア。

【日清紡ホールディングス】
エネファーム向け燃料電池セパレーターで世界トップ。燃料電池車の部品コストを大幅に低減する可能性のあるカーボンアロイ触媒の開発に注力。