文部科学省は、量子コンピューターの実用化に向け、10年間で約300億円を投資。2027年頃の実用化を目指す。実用時期を見据えたロードマップを作成。2027年頃までには、スーパーコンピューターでも困難な計算が可能になり始め、量子コンピューターが既存のコンピューターよりも優位になる。2037年頃までには様々な問題を解けるようになり、汎用性を持つ現在のコンピューターのようになるとした。

量子コンピューターは、作動原理が現在のコンピューターとは全く異なり、電子などの極微の世界で起こる物理現象を利用して性能を飛躍的に向上する。スーパーコンピューターを使っても計算に数千年かかるような問題を数分で解いたり、消費電力を大幅に減らしたりすることが期待されている。次世代レーザー加工やセンサー技術などへの応用も想定されているという。

米国は国家安全保障や経済的競争性を構成する重要な技術と位置付け、年200億円を投資。英国も5年で約500億円を投資。欧州連合(EU)も2019年から10年で約1250億円の大型プロジェクトを立ち上げる。


量子コンピューター関連企業の動き

企業 動き
NEC 基礎回路を2018年度中に開発し、2023年度に実用化
デンソー 渋滞解消に向けた実証実験 2020年代前半に実用化
豊田通商 カナダのD-Wave Systemsと協業
JSR 新素材の開発スピード向上 2025年に本格運用
リクルートHD 広告配信を最適化
富士通 2020年までの3年間で500億円を投資
カナダの1Qビットと資本提携し、利用企業を開拓
IBM 数年内に50量子ビットの商用量子コンピューターを開発
グーグル 5年以内に商用利用開始
VW グーグルと量子コンピューターで提携


【NEC】
NECは、量子コンピューターの頭脳にあたる基礎回路を2018年度中に開発し、2023年度にも実用化する。NECが開発する「量子アニーリング」方式は、膨大な選択肢から最適な答えを導き出す計算と得意とする。2023年度までに数十億円を投じて実機を開発。計算能力を示す「量子ビット」は、2000~3000量子ビットで、数百都市での時間ごとの最適な交通ルートをすぐに導き出せる。産官学の連携を進め、10年以内に1万量子ビットを目指す。


【デンソー】
 世界的な都市問題となっている渋滞解消に向けた実証実験でカナダのDWSの量子コンピューターを使用。渋滞が頻発する特定地域を走行する自動車のGPSデータを収集。量子コンピューターが走行している数百台の車に目的地までの最適ルートを瞬時に探し出す。量子コンピューターで蓄積したノウハウを次世代カーナビゲーションシステムに搭載することで渋滞を避けられるほか、自動運転などにも応用。2018年にも実験を開始し、2020年代前半の実用化を目指す。


【豊田通商】
2017年11月にカナダの量子コンピューターメーカーのD-Wave Systemsと協業すると発表。日本におけるビジネス創出で覚書を締結。今後、顧客開拓に加え、量子コンピューターを使ったビジネスモデル構築も共同で行う。

D-Wave Systemsは2011年に量子コンピューターを世界で初めて発売。米グーグルや米NASAなどが製品を導入している。


☆デンソーと豊田通商
2017年12月に量子コンピューターの実証実験を開始すると発表。大規模な車両位置や走行データを量子コンピューター上でリアルタイムに処理する。タイ国内のタクシー・トラック約13万台に取り付けられた専用車載器から収集した位置情報を活用。クラウド接続したカナダのD-Wave Systems社製の量子コンピューター内で処理する。量子コンピューターを活用した渋滞解消や緊急車両の優先的な経路生成などの新しいアプリケーション提案につなげる。


【JSR】
新素材の開発に米IBMの量子コンピューターを試験導入する。化学品は膨大な分子データから有望な化合物を設計して新素材を開発。従来の数千倍という演算速度を生かし、新素材の開発スピード向上につなげる。2025年をめどに研究開発での本格運用を目指す。


【リクルートHD】
旅行サイトなどを利用するユーザーごとにその広告配信を最適化。


【富士通】
富士通は、量子コンピューターの関連技術に2020年までの3年間で500億円を投資する。研究が盛んなカナダ・トロント大学に人員を派遣するなど基礎研究を進める。量子コンピューター向けソフトを手がけるカナダの1Qビットと資本提携し、利用企業を開拓する。


【IBM】
2017年5月に量子コンピューター「IBMQ」のプロトタイプを公開。量子ビットは最大で17個だが、数年以内に50量子ビットの商用量子コンピューターを開発し、インターネット経由で提供するとしている。量子ビットの数は、同時に計算できる組み合わせの数を意味する。17個なら2の17乗通り、50個なら2の50乗通りへと増える。

また、IBMは、量子コンピューターでJSRやJP・モルガンチェースなど4社と提携。4社に対して特別に顧客支援組織「IBM・Qネットワーク」を立ち上げ。研究者、技術者、コンサルタントなどを総動員し、実用化を急ぐ。


【グーグル】
5年以内に商用利用開始を目指す。2017年中に49量子ビットのチップを実際に製造して性能実証試験を開始する見込み。


【VW】
独フォルクスワーゲンは、2017年11月に米グーグルと量子コンピューターで提携すると発表。グーグルの量子コンピューターを使い、両社の研究者がアルゴリズムなどを共同開発する。渋滞解消やサプライチェーンの効率化、電気自動車(EV)用の次世代電池素材の開発に活用する。渋滞では自動車から集めたデータを機械学習と組み合わせて計算し、交通状況を予測。最適なルートを導き出す。