経済産業省は2014年5月中に規制を緩め、1回で車に補給できる水素の圧力上限を約700気圧から875気圧まで高める。車の走行距離を20%伸ばす。また、政府は一国の安全審査を通った車両部品を他国の審査なしで輸出できる協定を2016年に国内法に反映させる考え。日本の工場で作った燃料電池車の輸出をしやすくする。 トヨタ自動車は規制緩和を受け、2015年中の市販開始時期を2014年度中に前倒しする方針。ホンダも2015年中に一般向け販売を開始する見通し。 自民党の研究会は2014年6月中に購入費用や燃料費の補助を政府に求める提言をまとめる方針で、購入費用の自己負担を200万円台までとし、当面水素の補給費用も無料とする。政府が2015年度予算に補助金をどれだけ盛り込むかが注目される。 燃料電池関連市場は、製造設備や1万ヶ所の水素ステーション整備で将来的に10兆円に達する可能性があると試算されている。 {水素ステーション} 石油会社などは燃料電池車の燃料である水素を補給する水素ステーションを2015年に全国で100ヶ所設置することを目標としている。現在、関東・関西・中部地域の17ヶ所で実証実験の設備が稼動。JXホールディングスは2014年4月にガソリンスタンドと併設した水素ステーションを開設。また、2010年度半ばには水素製造設備を建設し、稼動を目指す方針。東京ガスは経済産業省の補助金を受け、東京都練馬区とさいたま市の2ヶ所で水素ステーション建設に着手し、2015年に稼動させる。 水素ステーション建設には高コストという課題がある。ガソリンスタンドの建設コストは7000万円から1億円だが、水素ステーションは5億円から6億円かかるとされる。そのため、日本は水素ステーションの建設コストを2020年までに2億円にするという目標を掲げる。一方、欧州では水素ステーションに関する制度整備が進み、1億円台での建設が可能という。 {水素燃料} 水素燃料は石油から化学品を生産する工程で取り出すため、コストが高い。現在1立方メートルあたり約120円とされている。川崎重工は2017年から豪州より輸入を開始し60円に、千代田化工は川崎市で大型供給基地を建設し80円に、JX日鉱日石エネルギーは水素をトルエンに溶かして液体化し、常温・常圧でトレーラーで水素ステーションに運ぶ技術を開発し100円以下に、ステーション整備や水素の生産量増加でさらにコストを引き下げ、ガソリン並みの60円に近づける方針。

  2013年 目標
水素燃料コスト 120円 60円

{燃料電池車関連銘柄}

企業 取組
トヨタ 市販開始を2015年度から2014年度中に前倒し
ホンダ 2015年中に一般向け販売開始
JX日鉱日石 13年4月にガソリンスタンドと併設した水素ステーションを開設
化石燃料から水素を従来より20%多く取り出す装置を開発
水素を液体化し、常温・常圧でトレーラーで運ぶ技術を開発
東京ガス 東京都練馬区とさいたま市の2ヶ所に水素ステーションを建設
岩谷産業 水素などのガス研究所を建設
九州大学 水素エネルギーなど実用化にむけた研究施設を開設
豊田通商 仏大手と提携し2014年度中に愛知県2ヶ所に水素ステーションを設置
川崎重工 液体水素を運ぶ小型船2隻を製造し、2017年に豪州から輸入を開始
千代田化工 2015年度に川崎市で水素燃料の大型供給基地を建設。300億円投資
液化した水素から再び水素ガスを取り出す特殊な触媒を開発
大阪ガス 2013年度中に都市ガスから従来の3倍の水素を生産する装置を開発
大阪府茨木市に水素ステーションを建設
太陽日酸 水素ステーションの主要機器をパッケージ化
神戸製鋼所 燃料電池車に高圧水素を充塡する圧縮機を開発
日本製鋼所 水素を貯められる高圧容器や水素を蓄える性質がある合金を開発
サムテック アルミに炭素繊維を巻き付けた軽量の水量貯蔵タンクを開発
豊田通商 下水処理の過程で発生するバイオガスから水素製造。実証実験開始。
三菱化工機
九州大学

【トヨタ】 トヨタ自動車は2014年内に燃料電池車の販売を開始。価格は700万円程度としている。また、日米で燃料電池車に水素を充填するインフラ整備を開始。日本では2015年にトレーラーに水素タンクを積んだ移動型ステーションを自前で用意。初期投資は約2億円ほどとみられる。米国では出資するベンチャーを通じて展開。カリフォルニア州政府から補助金を受け、州内に19ヶ所以上のスタンド型水素ステーションを建設する計画。 【ホンダ】 北九州市で燃料電池車から住宅に給電する実験を開始。水素を満タンにすると、一般家庭の6日分の電力を供給できる。電気自動車の3倍。 【JX日鉱日石エネルギー】 2013年4月にガソリンスタンドと併設した水素ステーションを開設。2015年度までに水素ステーションを40ヶ所建設する計画。2010年代半ばに水素製造設備を建設し稼動を目指す方針。 また、自社で生産している水素をトルエンに溶かして液体化し、常温・常圧の状態でトレーラーで水素ステーションに運ぶ技術を開発。車に充塡する時点で、独自開発した触媒を使って気体に戻す。現在は、気体の水素を高圧で圧縮し専用トレーラーで輸送し貯蔵しているが、液体化すれば高強度の炭素繊維製ボンベや爆発を防ぐ設備なども不要になり、水素ステーションの建設費は2億円と現行より半減する見通し。水素生産・流通コストは100円以下が実現できるもようで、ステーション整備や水素の生産量の増加でさらにコストを引き下げ、ガソリン並の60円に近づける計画。2020年を目途に供給網の整備を始める。 【東京ガス】 東京都練馬区とさいたま市の2ヶ所に燃料電池車向けの水素供給施設を建設。練馬区は2013年7月、さいたま市は2013年秋頃建設に着手し、2015年に運営を開始する。設備施設には経済産業省の補助金交付を受けることが決まった。 【岩谷産業】 40億円を投じて水素などのガス研究所を建設。超低温の液化水素を安全に輸送・貯蔵したりする技術や水素を効率的に圧縮する技術研究を行う体制を整備。2013年5月には愛知県豊田市に商用仕様の水素ステーションを東邦ガスと共同で設置。パッケージ型の機器による水素ステーションの省スペース化、短工期化でコスト低減を図ることや大容量・直充填技術の評価などを行っている。 【九州大学】 水素エネルギーなどの実用化に向けた研究をする「カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所」を開設。 【豊田通商】 仏エア・リキードと提携し2014年度中に愛知県内2ヶ所に水素ステーションを設置する計画。エア・リキードは欧州を中心に60ヶ所に水素ステーションを設置したノウハウを持つ。豊田通商は日本での行政との規制対応やステーション収支管理を請け負う。 【川崎重工】 液化した水素を運ぶ船舶を製造。600億円を投じ2500立方メートルの水素を運べる小型船2隻を製造。2017年からオーストラリアから輸入を開始。2030年までに16万立方メートルの水素を運べる大型船を製造。燃料電池車の年間300万台分の供給量を確保する。輸入価格は1立方メートルあたり29.8円で、国内流通コストを上乗せしても60円になるもよう。 【千代田化工建設】 2015年度に川崎市で水素燃料の大型供給基地を建設。投資額は300億円。供給量は年6億立方メートル。産油国で原油採掘時に出る水素を液体にして船で持ち込む。首都圏の水素ステーションを中心に圧縮・液化して専用車で配送する。水素の価格は約80円に下げられる見通し。 また、トルエンを使い液化した水素から再び水素ガスを取り出す触媒を開発。水素をガソリンのように常温・常圧で運べるため、既存の設備が活用可能になる。2015年3月期をめどに液体化した水素を中東やアジアの産油国から日本に運び、脱水素プラントで取り出す事業を立ち上げる計画。 【大阪ガス】 大阪府茨木市に水素ステーションを建設。投資額は5~6億円で、2014年秋に建設に着工し、2015年春に運営を開始する計画。 【太陽日酸】 水素ステーションの建設費を従来の2分の1にしたパッケージ型製品を発売。 【豊田通商・三菱化工機・九州大学】 下水処理の過程で発生するバイオガスから水素を製造し、燃料電池車へ供給する施設を新たに整備し、実証実験に取り組む。1日に燃料電池車約70台分の3700万立方メートルの水素を製造する。水素を製造できる下水汚泥消化ガスの発生能力がある下水処理場は日本全国に約300ヶ所ある。 {規制緩和} 経済産業省は2014年内に燃料電池車から住宅に電気を供給できるよう規制緩和を行う。現在、燃料電池車から住宅に給電する場合、電気主任技術者の資格が必要。規制緩和により資格を不要にし、一般の人でも家庭に給電できるようにする。